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建込みの順番
型枠をどの順番で建てるか。まみ社長はずっと「その時による」と言ってきた。ここでは、その「その時」の中身を最後まで分解する。
馬見塚建設の社内AI三人——かたやん、べに子、あみ——が聞き手をつとめた記録。構想の話ではなく、実際にやったことをそのまま載せている。
Log 01 / 聞き手:あみ・かたやん・べに子 / 2026年9月26日
今日はいつもの記事のお手伝いではなくて、社長の頭の中を直接拾い出しにきました。
あみちゃん、拾い出しはね、図面ば見て「この現場にどの材料が何本要るか」を読み取る作業のことばい。原稿から大事なとこを拾うのとは違うとよ。
……使い方が違う(笑)。いや、待て。今日に限っては合ってる。
では社長。この仕事で「これ、人に説明しにくいんだよな」と思っていることって、何ですか。
説明しにくいんだよなぁと思うものか。建込みの順番かな。
場面によっても変わるし。場面といっても、たとえば枠が大きい小さいでも変わるし、狭い広いでも変わるし、工期でも変わるし、仕上がりでも変わるので。
その時の、それこそその場面は「これ」ってなるけど、次回同じ雰囲気のところ行ったら、いやこれはこっちだよね、ってなることが往々にある。
すみません、わたし建込みが何かも分かっていません。
加工した型枠の部材を、現場で実際に組み立てて建てていく作業のことばい。墨に合わせて、一枚ずつ建てていくと。
一番最近それがあった現場は、どこでしたか。
最近か。最近だと、ちょっと小さい鉄骨の現場で、立ち上がりの壁を作ろうとしたけど、外側が狭いんだよね。非常に。
でも中は化粧で、天端に面木を打たなきゃいけなくて。そうすると、イメージしてほしい。外の枠が立っている状態で、中の枠を後から立てると、ハンマーを振るスペースが狭いわけよね。
そうすると中から立てて、面木を打ちやすいところで打ってから外を立てる。立てた方がやりやすいよね。っていうパターンがあったかな。
社長、今の判断の決め手は「狭いかどうか」じゃないですね。ハンマーが振れるスペースが、どっち側に残るかだ。
すみません、一つだけ。面木というのは何を打つんですか。
まず、面木っていうのは、コンクリートの天端に、なんだろうね、テーパーを作るものです。
いや、角が尖ってると怪我しやすかったりするでしょ。なんでそこを斜めにして、ツルツルの状態にする。面木という、まあ、三角形の材料があるんですよ。そいつを型枠の天端に打つ。という感じですね。
逆に「外から立てた方がいい」現場は、どんなときですか。
逆に外から建てた方がいい現場っていうのは、基本的には外から建てたいんだよね。楽なので。
で、外が狭いとき、外が狭いときほど外から建てたい。で、外に面木があって、中に何もないっていうんであれば、もう確実に外から建てるパターン。内も外も面木がいるっていうパターンは、やっぱり建てやすい外から建てる。
まあ、外が広くて中が狭いっていうパターンはほとんどないのでね。
内も外も面木が要るときは、中の面木を打つときに狭くなっていませんか。
外を先に立てて面木、中に面木の時は、別に、なんだろうね、打てないわけじゃないんだけど、打ちにくい。
で、高さもちょっと見づらかったりするので、ちょっとね、精度が落ちるんですよ。打てないわけではなく、あくまでも打ちにくい、時間がかかるっていうことです。あと精度もちょっと落ちる。
「できる/できない」じゃない。判断は天秤か。
社長、確かめさせてください。最初の鉄骨の現場、もし中が化粧じゃなかったら。同じ狭さでも、外から建てましたか。
外から立てますね。
内外面木であっても、内外が化粧であっても、外から立てるよ。要するにできないわけではないということ。あくまでも効率の問題。
全部できる。そのうえでどれが速くて正確かを並べている。覆るのは、覆すだけの効率差が出たときだけだ。
これ、感覚じゃないですよ。
枠の大きさでも変わる、とおっしゃっていました。大きいか小さいかで効率はどう変わるんですか。
うん、例えば、外が狭い場面で、もう人が一人入るぐらいしかないスペースな時の設定だとする。で、壁の高さが、例えば、そうだね、じゃあ2メーターありますよ、という時。想像してみてくださいね。
中を先に立てたら、外に枠を持っていくのが大変だよね。ので、大きいときは、やはり外から、なのよね。枠を立てるときは、中から外に枠を取り出すという場面がほとんどなので。ということ。
で、逆に、外も中も広いよっていう場面であれば、外の材料は外に、中の材料は中に置いてくから、さっき言った精度を出したい方、例えば中に面木があるんだったら、中から立ててもいいよね。
要するに、枠の振り回しがどこで行うかっていうことが重要になってくる。
枠が大きいと、材料を置ける側が先に決まる。……社長、最初の鉄骨の現場、「ちょっと小さい」現場と言ってましたね。
あ。だから中から建てられたんですか。
残りは工期です。どこに効いてくるんですか。
まあ、工期の話も結局これにくっついてくるよね。
さっき言った外が狭い、中が広いというパターンで考えると、中の方が化粧だから中から起こさなきゃいけない。で、中が打ちっぱなし化粧で、セパ割りとかも、面木や縦目地とかもいっぱい入るよっていう時には、中から起こすしかない。なんとか頑張って、外へ引きずりながら枠を持っていって立てる。っていうことになるわけ。
こうすると、やっぱり効率が落ちるよね。で、人間も、一人多く必要になってしまうでしょう。ので、その人間を多く一人入れれない場面であれば、それが工期に繋がってくるよね。
要は、10人しかいないのに12人分の仕事がそこにあれば、もう一日必要になるし。
工期は判断軸じゃない。結果だ。順番を決めた瞬間に、日数まで計算が終わってる。
……社長、それ全部、現場に立った瞬間にやってるんですか。
現場に立った瞬間にやるかどうかというのは、現場に立った瞬間じゃなくて、一番最初の打ち合わせの段階で、もうそこまで全てをイメージして話をしている。
これがプロの仕事です。
以上、まみ社長の頭の中から、建込みの順番をお伝えしました。
取り出した判断表
「その時による」と言われていたものを、条件ごとに並べ直した。
| 面木の位置 | 中が化粧か | 外の狭さ | 建てる順 |
|---|---|---|---|
| 作業なし | — | — | 外から |
| 外だけ | — | — | 外から |
| 内外どちらも | 化粧でも | — | 外から |
| 中だけ | 化粧でない | 狭くても | 外から |
| 中だけ | 化粧 | 非常に狭い | 中から |
原則は「外から建てる」。例外は最下段の一行だけ。ただしこれは枠が小さく、材料の通り道に余裕がある場合にかぎる。
五段の階層
社長が最初に挙げた四つの条件は、並列ではなく上から順に効く。
材料をどこに置き、どこへ出すか。枠が大きく片側が狭ければ、ここで順番が確定する。二段目を考える余地はない。
通り道に余裕があって初めてここへ来る。化粧か。面木・セパ割り・縦目地がどれだけ入るか。要求の高い側を先に建てる。
素直に置けるか、引きずることになるか。打ちにくさは時間と精度に跳ね返る。
一人余計に要るかどうか。効率の低下はここで人数に変わる。
その一人を入れられるか。入れられなければ一日増える。工期は決めるものではなく、決まった結果として出てくる。
「同じ雰囲気の現場なのに逆になる」理由もここにある。現場の見た目は一段目を教えてくれない。だから同じに見えて、答えが変わる。
この回に出てきた言葉
べに子による解説。まみ社長が内容を確認したものだけを載せている。
あみちゃん、まずセパ割りね。
セパレーターっていう金具があるとよ。向かい合った型枠の間に渡して、壁の厚みを保つ棒たい。コンクリートは流し込むと外へ押してくるけん、これが無かったら型枠が膨らんでしまうと。
そのセパをどこに何本入れるか決めるのが「セパ割り」。ただ数を入れればよかっちゃなくてね。打ち放しの化粧やと、セパの先っぽの跡がそのまま壁に丸く残るとよ。つまり割付がそのまま建物の顔になると。だから化粧の壁は、セパ割りを決めるのに時間がかかるったい。
次に目地。壁に入れる筋のことで、縦に入れるけん縦目地ね。これ、見た目だけの話じゃなかとよ。二種類あると。
ひとつが誘発目地。コンクリートはどうしてもひび割れるけん、割れる場所をこっちで決めてやるとです。わざと溝を入れて断面を細くして、そこに割れを集める。放っといたら好き勝手なところに入るけんね。
もうひとつが化粧目地。こっちは意匠。見た目を整えるために入れると。
で、あみちゃん。中が打ち放し化粧で、セパ割りも面木も縦目地もいっぱい入る——さっき社長が言いよったこれ、全部中側でやらないかん作業ばい。だけん中から起こすしかなくなると。
現場に立った瞬間じゃなくて、一番最初の打ち合わせの段階で、もうそこまで全てをイメージして話をしている。これがプロの仕事です。— まみ社長
職人の頭の中にしかない判断を、言葉と表にして残していく試みです。